TLC発色剤

 薄層クロマトグラフィー(TLC)は最も簡便に有機化合物の混合物を分析できる手法です。一般に、254 nmのUVランプを使って有機化合物の有無を検出しますが、その波長のUVを吸収しない化合物は検出できません。そのような化合物を検出するためには、発色剤を利用します。ここでは、様々な発色剤とその利用法について紹介します。

発色剤を使用する前に

 発色剤を使用する場合、以下の作業を行う。

TLC展開後すぐに…
    1. TLCを展開後、UVランプでスポットを確認する。
    2. ドライヤーを使って、プレートから有機溶媒を蒸発させる。
発色剤を使用する場合の注意点
    • TLCプレートの表面を素手で触らないように注意する。手の脂が発色剤と反応するからである。
    • プレートを持つ場合は、ピンセットを使用する。
    • 余分な発色剤を拭き取るための紙は、汚れの無いものを使う。汚れが発色剤と反応するからである。
    • 加熱によって発色する場合、加熱しすぎるとプレート全体が発色してしまい、スポットが判別できなくなる。
    • 水溶液タイプの発色剤(CAM, Yellow CAMなど)の場合、発色剤に浸し、取り出した直後にプレートを注意深く観察すると、屈折率の関係でスポットの有無が判別できる場合がある。

リンモリブデン酸エタノール溶液

 万能型。黄色の背景に青いスポットが現れる。水酸基、含ケイ素化合物の検出に適している。

調製法
    1. 広口の試薬瓶に、2.5 gのリンモリブデン酸 (12MoO3・H3PO4) を入れ、50 mLのエタノールで希釈する。
    2. 密栓して保管する。
使用法
    1. プレートを発色剤に浸し、すぐに取り出す。
    2. きれいなキムワイプ等で余分な発色剤を拭き取る。
    3. ホットプレート(目盛 3–4 程度)で加熱する。
    4. 発色したら、すぐに加熱をやめる。

アニスアルデヒド 

 万能型。背景は赤くなり、化合物によってスポットの色が異なる。

調製法
    1. 68 mLのEtOHに2.5 mLの濃硫酸を加える。
    2. 1.2 mLの酢酸、1.9 mLのアニスアルデヒド(p-MeOC6H4CHO)を加える。
    3. 広口の試薬瓶に移し、密栓して保管する。
使用法
    1. プレートを発色剤に浸し、すぐに取り出す。
    2. きれいなキムワイプ等で余分な発色剤を拭き取る。
    3. ホットプレート(目盛 3–4 程度)で加熱する。
    4. 発色したら、すぐに加熱をやめる。

CAM 

 万能型。白色の背景に青いスポットが現れる。

調製法
    1. 45 mLの蒸留水に5 mLの濃硫酸を加える。
    2. 1.25 gの (NH4)6Mo7O24・4H2O、2 gのCe(NH4)4(SO4)4・2H2O を加え、撹拌する。
    3. 広口の試薬瓶に移し、密栓して保管する。
使用法
    1. プレートを発色剤に浸し、すぐに取り出す。
    2. 目視で、スポットの有無を確認する。
    3. きれいなキムワイプ等で余分な発色剤を拭き取る。
    4. ホットプレート(目盛 3–4 程度)で加熱する。
    5. 発色したら、すぐに加熱をやめる。

Yellow CAM 

 万能型。白色の背景に青いスポットが現れる。

調製法
    1. 45 mLの蒸留水に5 mLの濃硫酸を加える。
    2. 2.5 gの (NH4)6Mo7O24・4H2O、0.5 gのCe(SO4)2を加え、撹拌する。
    3. 広口の試薬瓶に移し、密栓して保管する。
使用法
    1. プレートを発色剤に浸し、すぐに取り出す。
    2. 目視で、スポットの有無を確認する。
    3. きれいなキムワイプ等で余分な発色剤を拭き取る。
    4. ホットプレート(目盛 3–4 程度)で加熱する。
    5. 発色したら、すぐに加熱をやめる。

ニンヒドリン試薬

 本来はα-アミノ酸を検出するための発色剤である。アミノ基、アミド基の検出にも使える。白色の背景に黄色、赤茶色、紫色のスポットが現れる。

調製法
    1. 70 mLの1-ブタノールと70 mLの蒸留水を分液漏斗に入れ、充分に震盪する。
    2. 上層(水飽和1-ブタノール)を取り出す。
    3. 0.25 gのニンヒドリンを広口の試薬瓶に入れ、50 mLの水飽和1-ブタノールに溶解する。
    4. 密栓して保管する。
使用法
    1. プレートを発色剤に浸し、すぐに取り出す。
    2. 目視で、スポットの有無を確認する。
    3. きれいなキムワイプ等で余分な発色剤を拭き取る。
    4. ホットプレート(目盛 3–4 程度)で加熱する。
    5. 発色したら、すぐに加熱をやめる。

ヨウ素

 万能型。薄茶色の背景にこげ茶色のスポットが現れる。特にアミノ基、アミド基の検出に優れている。これでしか発色しない化合物も多い。発色後のプレートを空気中で放置すると、ヨウ素が蒸発して、スポットが見えなくなる。

調製法
    1. 50 mL程度の広口の密栓可能な無色の瓶に、5, 6粒のヨウ素の塊を入れる。シリカゲルを少量入れても良い。
    2. 密栓し、ヨウ素の蒸気を容器内に充満させておく。
使用法
    1. 乾燥したTLC板を瓶の中に入れ、フタをする。
    2. スポットが現れるまで数分間放置する。
    3. スポットが現れない場合、少し振る。発色までに10分以上かかる化合物もあるので注意する必要がある。
    4. この方法で分析したTLCプレートを廃棄する場合、チオ硫酸ナトリウム水溶液に浸して、ヨウ素を還元してから廃棄する。

改良リンモリブデン酸試薬

 試したことはない。

調製法
    1. 50 mLの蒸留水に、0.75 mLの85% リン酸 (H3PO4)、2.5 mLの濃硫酸を入れる。
    2. 1.2 gのリンモリブデン酸を入れ、溶かす。
    3. 広口の試薬瓶に移し、密栓して保管する。
使用法
    1. プレートを発色剤に浸し、すぐに取り出す。
    2. きれいなキムワイプ等で余分な発色剤を拭き取る。
    3. ホットプレート(目盛 3–4 程度)で加熱する。
    4. 発色したら、すぐに加熱をやめる。

塩化マンガン

 試したことはないが、脂質、ステロイド類の分析に優れているとのことである。他の発色剤と異なり、スポットが目視できるわけではないので注意すること。

調製法
    1. 0.2 gの MnCl2・2H2Oを広口の試薬瓶に入れ、30 mLの蒸留水、30 mLのメタノールで希釈する。
    2. 2 mLの濃硫酸を加え、混ぜる。
    3. 密栓して保管する。
使用法
    1. TLCプレートを発色剤に浸し、すぐに取り出す。
    2. きれいなキムワイプ等で余分な発色剤を拭き取る。
    3. ホットプレート(目盛 3–4 程度)で10分間加熱する。
    4. 366 nmのUVランプを使って、スポットを検出する。